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ヘルスプロモーションとは?

1)健康教育理論の変遷
2) ヘルスプロモーションとは
3)生活者のニーズをどう聞き取っていくか〜グループインタビュー


1)健康教育理論の変遷

 人々の健康を目指して、時代、疾病構造、社会の変化の中で古くから健康教育の様々な試みが展開されてきた。健康教育の目標にも変遷がみられている(表4)。

表4 健康と健康教育の歴史的な発展過程



1知識普及からKAB(KAP) model時代

 知識不足そのものが疾病を生んでいた時代(1940年代)には、専門家による知識の普及そのものが健康教育であった。1950-60年代になると、知識Knowledgeが態度Attitudeを変え、続いて好ましい行動Behavior(習慣Practice)をとる様になるであろうとする考えのもとに頭文字をとったKAB(KAP) modelが展開された。

 ex. 手洗い、タオルの1人1枚(トラコーマ)、細菌感染等


2保健信念モデルの時代

 70年代にはいると、知識の普及のみでは十分な成果をあげ得ないとの反省から、当時盛んであった社会心理学の要素を取り込み、ある病気に対して感受性があるとの認識や、その病気に罹ったときの深刻さの認識といったネガティブな心理状態と、行動した場合に、感受性や病気の深刻さが軽減されるであろうと信じるポジティブな心理状態が行動の変容に影響していることを利用したHealth Belief Model(保健信念モデル)が展開された。主として予防接種や健康診断の受診行動の喚起に効果をあげた。しかし、先進国といわれる国々で、急性疾患(感染性疾患)がある程度解決し、結果として残った慢性疾患(成人病)が顕在化してくると、このモデルにも限界がみえてきた。

3The PRECEDE framework, The PRECEDE-PROCEED modelの時代

 80年代には、PRECEDE frameworkがGreenらによって開発され、さらにそれは90年代にはいると健康教育の展開にWHOが提唱したヘルスプロモーションを取り入れ、The PRECEDE-PROCEED modelになり完成をみた。


4 Empowermentの時代

 健康教育はさらに発展しており、現在では「傾聴」-「対話」-「行動」アプローチを基本とし、保健従事者と住民、あるいは患者が対等の立場で参画する健康学習Empowermentの時代に入ったといわれている。

 ex. 医者抜きで、検査結果を患者に戻し、5-6人の患者同士で話し合いをさせる糖尿病教室

 

● 保健教育とは?

 保健の現場では、教育・指導がその中心を占めている。わが国のそれは、時代、疾病構造の変遷に正しく反応してきたのであろうか。あるいは、上記理論が各種健康教育に取り入れられてきたであろうか。

 いまだ、専門家が素人相手に啓発するといった旧来のKAB(KAP)モデルの域を出ていないのではないだろうか。また、恐い病気と脅して健康教育を行う保健信念モデル的な部分もみられる。行動科学と称して個人的な経験談を雑誌等に紹介している内容をみるかぎりにおいては、まだまだ遅れていると言わざるを得ない状況である。


2)ヘルスプロモーションとは

 今回の障害者福祉計画はヘルスプロモーションという考え方を基に策定しています。ヘルスプロモーションは1986年にWHO(世界保健機構)が提唱したオタワ憲章の根幹をなす新しい健康戦略です。

 WHOがこの戦略を打ち出した背景には、先進諸国では疾病構造が感染症から生活習慣病へ変わったことや、従来のトップダウン的で行政主導型の手法では問題の解決が困難なことがあるといわれています。疾病対策から生活のあり方(ライフスタイル)そのものに注目した点や、行政や医療の専門家からの一方的なサービス提供のあり方を見直した点は保健の分野だけでなく障害者福祉の場面でも大いに意味のある理念であるといえます。

 ヘルスプロモーションでは健康を、人々が充実した人生を送るため(QOLの向上)の大切な資源であると捉え、最終のゴールは住民一人ひとりの幸せな人生にあるとし 

★主役は住民であること 

★あらゆる生活の場がヘルスプロモーションの場であること 

★あらゆる場面に住民が参加すること

 を重視しています。

 その実現のためには暮らしのありよう(ライフスタイル)に着眼しそれをなるべく好ましい形に住民が自ら改善できるように関係者は支援したり環境を整えることを提唱しています。

 また、ヘルスプロモーションを進めていくプロセスで「唱道」「能力の付与」「調停」の三つのことが重要であるとされています。これをたとえ話でわかりやすく説明すると、周りの人たちに「幸福」という山へ「みんなで登ろうよ、あの山の頂上からの眺めはとってもすばらしいそうだよ」とささやいて仲間を集め(唱道)、仲間が集まったら一緒に山の登るための体力を付けたり岩登りの練習をしてお互いが力を付け(能力の付与)、資金を集め食料を調達しみんなのスケジュールを調整し気持ちをひとつにする(調停)ことが成功の鍵を握っているということです。ヘルスプロモーションを成功させるには周りの人に自分の意見をわかりやすく伝え、相手の意見をよく聞き、互いによく話し合って意見を調整しめざすゴールやその方法について合意形成のプロセス、すなわちコミュニケーションが重要であると考えられます。

 人には生まれてから年をとっていく成長過程で健康に対してリスクの高い時期もあれば低い時期もあります。このような人生の坂とも捉えることができる成長の過程で人々は健康の玉を押し上げながら幸せな人生(めざすべきゴール)の実現へと向かって坂道を登って行かなくてはなりません。人生の坂を登っていくのはあくまでも本人ですがそのプロセスで坂道の角度を低くするなどの登りやすい環境を整備したり、登る力を付ける(ライフスタイルの確立)ための教育が必要となります。また周りの人々や専門家の後押し(サポート)も必要です。

3)生活者のニーズをどう聞き取っていくか
 

<みんなでめざすゴールを決めるには>

 障害者自身やその家族の望む好ましいライフスタイル、「人生の坂」の先にあるめざすべきゴールを決めるには本人や関係者の生の声を聞く必要があります。また策定されたプランが実効あるものとなるための前提条件として「住民一人ひとりが障害や障害者を正しく理解し、認識を深めること」が揚げられます。

 住民が障害や障害者を正しく理解し、認識を深めるためには、まずその前に町が伝えるべき情報を把握し理解する必要があります。その情報とは量的なものと、質的な物があります。量的な情報は杷木町では既に平成10年度の「障害者福祉計画策定に伴う基礎調査」で把握できています。質的な情報は障害者とその周りの人々の本当の困り事や真の要望を聞くことにより始めて得ることができます。

 また実施にあたり、種々の問題を解決していくには住民の主体的参加、すなわち「住民参加」が必須条件となります。なぜなら障害者福祉計画の主役は「障害者自身」とその「周りの人達」なのですから。住民参加はまず、その人達の生の声を聞く(グループ・インタビュー)ところから始まります。すなわち、障害者本人やその関係者が自分達のことを語ることによって本当のニーズを担当者が把握できるだけでなく、自ら語ることにより主体的な参加意識が生まれるからです。

 

★ グループ・インタビューの方法

 グループ・インタビューの具体的なやり方には既にいくつかの確立された手法があります。それらに共通している基本的な姿勢は傾聴と対話です。司会者は話題とすべきテーマについて「話の垣根」を作り、それから逸脱しないように気を配りながら意見を傾聴します。参加者に自由に意見が出るように誘導し、参加者間に対話が起こるようにインタビューを進めていきます。

★ グループ・インタビューのメリット

 このようにインタビューを進めることにより真のニーズを把握できるだけでなく、アンケートだけからは得られない思いがけない実態が浮き彫りになったり、示唆に富んだ問題の解決策が得られることがあります。またこの傾聴と対話から起こる自主的な会話の過程で、「障害者福祉計画」が自分たち自身の問題であることの認識が強まると共に、依存的でない主体的な参加意識が生まれてきます。

★ 得られた情報をどう生かすか

 生の声にはプラン策定のための有益な情報が詰まっています。しかし出された意見をそのまま眺めるだけでは複雑すぎて有益な情報を充分に取り出すことが困難です。得られた情報は整理分析ができて始めて価値が生まれます。情報の整理分析については杷木町では既に小児のウ蝕対策等で実績をあげているMIDORI(みどり)理論を応用しました。

< MIDORI(みどり)理論について>

 ヘルスプロモーションを展開するための具体的な方法として、1991年にアメリカのローレンス・グリーンによってMIDORI理論(プリシードプロシードモデル)が開発されました。この「MIDORI理論」(図2)では、現在の社会の問題についてどのような状況にあるかを様々な場面から診断し、その結果を基にどのような情報を誰にどんな場面で提供し、どのような支援と保健・福祉サービスを実施していくかを計画します。また診断から実行そして評価までが一連の流れで捉えることができるようになっています。(中村 譲治)



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